国連「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」の地域拠点『中部ESD拠点』

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第3分科会(高等教育)

活動成果

1 名古屋市立大学における試行結果

名古屋市立大学においては、教養教育科目後期開講の「人間と自然12(ESDと環境)」において本プログラムの試行を行いました。受講生は人文社会学部所属の1年生2名と3年生1名の合計3名です。本講義は松野正太郎非常勤講師(名古屋大学大学院環境学研究科特任助教)が担当しました。
第1回目から第7回目までは、持続可能な社会の考え方、中部地域の環境・経済・社会に関する現状について、講義およびディスカッションを行いました。持続可能な社会の考え方については、「地球憲章」を1項目ずつ輪読した上で、受講生全員の理解・考えについて討議を行いました。また、中部地域の環境・経済・社会について、環境分野では循環型社会については東海3県の廃棄物発生量・リサイクル量等、低炭素社会については東海3県のCO2排出量や電力等のエネルギー使用量・再生可能エネルギー等について、既存の統計データを提供し、基礎的地域の理解を深めました。経済分野では、この地域の貿易出荷額・域内総生産・雇用者数・税収等について統計データを提供し、社会の分野では、地方制度調査会が発表している道州制答申のポイントを用いて、それぞれ理解を深めました。第8回目から第14回目まで、表3.3.2に示す「持続可能な中部:将来の姿」マトリックス(簡略版)」を用いて「資源・エネルギー・くらし」の項目から順に受講生個人個人に点数を付けさせ、その点数とそのように点数を付けた理由について発表させました。なお、これについては教員も同様の作業を行いました。このプロセスにおいて最も重視したのは受講生個人個人の点数を付けた根拠の違いの共有化であります。基礎知識の共有を行ったうえでのディスカッションでありましたが、受講生それぞれが重視する価値観・目標感の相違により、かなり点数に違いが見られる結果となりました。環境分野では点数にあまり開きは見られなかったが、経済分野および社会分野では同項目で全く逆の点数をつけることが多々あり、ディスカッションの結果を概括すると、それぞれの項目について考えている対象範囲が「個人」を中心に考えるか「コミュニティ」を中心に考えるか、あるいはもっとグローバルな範囲を想起して考えるかの違いがあったこと、また、マトリックスの手段のパッケージにおいて考え方に差が出るような仕組みにしてあったが(例えば経済・企業の項目の2-2「付加価値の源泉」の「サービス・情報産業重視(人間・技術・知識の提供)」、「モノづくり重視(製品の提供)」、「金融重視(お金の流通・貸借)」)、どれが重要かを考えるのではなく、全て重要であるがそのバランスをどのように考えるかという思考の下で点数を付けた受講生も居り、これらの点で見解が分かれました。また、特に経済分野では、どの項目についても”0”を付けた受講生が居たが、これは「どちらとも判断できない」というよりも「分からない」という理由によりこの点数を付けたというケースによるものでありました。すなわち、環境・経済・社会のそれぞれの分野の中では、経済分野についての判断が難しかったということが推察されます。
第15回目には、各分野の政策手段の項目について、受講生それぞれがマスごとに付けた点数を足し合わせ、持続可能な中部を創生する上でどの分野を重視しているかについて比較できるよう、レーダーチャートを作成しました(図1)。A、B、Cは受講生を示しており、環境分野(低炭素社会・循環型社会・自然共生社会)では相対的にどの受講生も凸が大きくなっているが、経済分野(地域経済再生・所得格差是正・雇用創出)では全体的には凸が大きくなっているが受講生ごとに重視する度合いが大きく異なっていることが見て取れます。

図1 名古屋市立大学における試行結果(受講生ごとの目標別レーダーチャート)

また、社会分野(心の豊かさ・社会対立解消・南北格差解消)については、他の分野と比較して凹が大きくなっていました。この点は教員としても当初の想定と異なる結果となりましたが、この分野を重視していないということではなく、点数をつける際に受講生が具体的な社会のイメージがしにくかったことによる結果であると捉えた方が適切であると考えられます。


講義の全景              点数を付けている様子