国連「持続可能な開発のための教育(ESD)の10年」の地域拠点『中部ESD拠点』

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第3分科会(高等教育)

活動成果

2 富山県立大学における試行結果

富山県立大学では工学部3年生向けの専門科目「環境マネジメント」の1コマ分を利用して本プログラムの試行を行いました。受講者数は30名であり、これを7つのグループに分けワークショップ形式で実施しました。なお、1コマ90分のみであったので、表3の通り簡略版のうち「経済・企業」の項目のみを用いました。この項目を用いたのは、富山県がものづくり中心の県であるという地域の特性を踏まえたためであります。

表3 富山県立大学で使用した「持続可能な中部:将来の姿」マトリックス(簡略版)

本試行では、横軸に示す目標について、受講生の基礎知識の確認と考え方整理のため、環境分野においては「低炭素社会:温室効果ガスの排出を抑え地球温暖化を抑制し、急激な気候変動を起こさない自然と人間が共存する社会」、「循環型社会:環境への負荷を減らすため、自然界から採取する資源をできるだけ少なくし、有効に使うことで廃棄するものを最小限におさえる社会」、「自然共生社会:生物多様性が保たれ、社会経済活動が自然と調和したものとし、自然と触れ合う機会を確保した自然の恵みを将来にわたって享受できる社会」、経済分野においては「地域経済再生:首都圏ではない地方における経済再生、大都市でも地域により格差もある」、「所得格差是正:地域間、産業間、世代間、男女間などで生じている所得の格差の是正」、「雇用の創出:新しい仕事の機会を生み出すこと。失業者の救済から企業化支援、事業拡大などの施策へと変化している」、社会分野では「心の豊かさ:精神的なやすらぎや充実感が得られ、つながりを持てる社会(反:モノの豊かさ)」、「社会対立解消:政府住民対立、地域対立、労使対立、世代間対立などの社会的な対立構造の解消」、「南北格差解消:国際的な先進資本国と発展途上国の経済格差の解消」という定義づけを行いました。これを踏まえ、グループごとに各項目について、+1、0、-1の点数付けを行いました。その上で、名古屋市立大学における試行と同様に、持続可能な中部を創生する上でどの分野を重視しているかについて比較できるよう、レーダーチャートを作成しました(図2)。なお、本試行では、7グループの政策手段ごとの合計の平均を算出し、これをレーダーチャートに示しました。この結果、サービス・情報産業重視の場合は、環境分野では凸が大きくなるとともに、経済分野の「雇用創出」、社会分野の「南北格差解消」も凸が大きくなりました。モノづくり重視の場合は、経済分野の「地域経済再生」、「雇用創出」が大きくなる一方、環境分野・社会分野の各項目は相対的にかなり凹が大きくなりました。金融重視の場合は、相対的に全ての項目で点数が小さくなっています。

図2 富山県立大学における試行結果(グループごとの目標別レーダーチャート)

次に、本プログラムの受講生の評価についてアンケートを実施しました。「このワークショップでは、持続可能な社会・北陸地域を考える役に立ちましたか?」という問について、「項目別に考えることで、何を重視しているか明確に出来た。」「項目を細かく分けていずつ真剣話し合ったため、より深く考えることができた。」「今までどんな社会か考えなかったのに、どの社会が持続可能な社会になるのか気になる。」「考える時の方法を知ることができた。」「自由な発想、意見を探り出すことで地域活性化を考えられると思った。」「地域の格差について考える議題があった。」等、グループディスカッションを通じて自らの意見を深化させること、思考法を学ぶことが促進されたという効果があったと考えられます。他方、時間が足りず、理解を深化させるまでには至っていないという意見もあり、実践上の時間配分等の課題も提起されるところとなりました。また、「今回のワークショップで、学んだことをお書き下さい。」という問については、「自分の意見だけで物事を判断するのではなく、他人の意見を聞いて視野を広げてから判断することが必要だと思いました。」、「広く考えるのではなく、項目に分けることで評価しやすくなることに気づいた。」、「自分とは異なった意見でも同じ意見でも一人ひとり考えが違っていて、それぞれが納得できるものであった。いろいろな視点から物事を考えることが大事だとわかった。」「他の人の意見を聞くことの大切さを知った。」「相手のことを否定しないことで、違ったものの捉え方ができ、視野が広がったように感じました。今後、一つ答えがでて満足するのではなく、様々な答えを探すように心がけようと思います。」「それぞれ個々の意見を一つにまとめる難しさや、頭のなかでまとめた考えをまとめた上で、意見を発表する力を学んだ。」等、相手の考えを理解することやグループの意見をまとめて発表する能力を身につけることが促進されたという効果もあったと考えられます。本プログラムがESDで身につけるべき能力である俯瞰力やコミュニケーション能力の涵養のツールとなる可能性があることが実証されたと考えられます。